TO BE FREE

〈自分になる〉ために

紫陽花の庭

紫陽花の庭
湯川潮音, 栗原正己, 鈴木惣一朗
東芝EMI

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好きな音楽を挙げろと言われればきりがない
それはグラスゴーのロックグループや
エストニアのジャズトリオや
新宿西口の歌声や
それぞれが素晴らしい出会いであり
好きな音楽となりえた

そして幸せな音楽を挙げろと言われれば
僕は一つの歌声を思う
思い出すだけで幸せになる音楽と出会える人は、
どれくらいいるのかな
少なくとも僕は知っている
幸せの歌声を

湯川潮音
初めて出会ったのは渋谷のHMV7F
ラウンジのコーナーでエレクトリックな音楽を
探していたときに出会ったのだ
場違いにおかれていたそのCDの少女の歌声は、
僕を暖かい手で触るように僕をとらえた

渋谷の混沌の中で
そこだけが静かだった
その静寂の歌は
決して希望の歌ではなく
ただ静かに僕を癒し続けた

僕が彼女の歌を知ったときには
マイナーなアーティストであり
コンサートも当日券が取れたほどだ
「空想音楽会」と名づけられたそのコンサートに
僕は一人で通った

表参道の小さな地下のライブハウス
当時はまだライブハウスにも椅子を置けるスペースがあって
僕はテーブルのある高い椅子に座ってた
少しだけワクワクしながら

今思い出したんだけど
そのテーブル席は二人用で
隣に座ってきた女性と
話しながら開始を待ってたんだった
芸大で絵画を描きながら生活しているその女性は
たしか僕と同じ年齢で

忘れてたなあ
書くことで思い出すこともあるんだよね
だから書いてるのかなあ俺は

僕はその人の声も顔も思い出せない
だけどその人の持つ空気のようなものは
思い出せる気がする
世界は曖昧だ
混ざって溶けて、不思議な味になる


空想音楽会で僕はますます湯川潮音を好きになっていった
それは僕に限ったことではなかったようで
コンサートも次の空想音楽会�Uではテーブルが撤去され
その次には立見になってしまった
最初のアルバム「逆上がりの国」は絶版となり
アマゾンで7000円ほどに値上がりしている
僕はこのアルバムを妹と、昔好きだった人にあげた

そしていまやコンサートに行くのは難しくなってしまった
空想音楽会は、キャンドルがともされていたり
前座のアーティストも素晴らしく
市川美和子・美日子姉妹や、
東野翠れんや、
湯川潮音の空気感と融和するようなモデルさんたちも来てたり
楽しかった
もう行けないかもなあ・・
なんて漠然と思って
少し寂しい


僕にとって最後かもしれない
空想音楽会に行ったのは
昨年末のことだった
ブログで湯川潮音について触れたときに
知り合った女の子がいた

自身も歌を歌うその女の子とは
好きな音楽のことではかなり気が合った
そういえば
僕が今好きになった
倉橋ヨエコ矢野顕子も彼女が紹介してくれたんだ

あの子はあの日どんな服を着ていたっけ・・
忘れてしまった
どんな話をしたのかも分からないし
ただ、表参道を寒い中歩いていたのは覚えてる
まだ表参道ヒルズのできる前で人通りも少なかった

時は流れる人は変わるし世界は少しだけ歳をとった

そして今月
期せずして湯川潮音の歌声を聞くことができた
大阪の野外ライブフェスに参加したのだ
もちろん夏の野外、しかもロックフェスの中
空想音楽会のように作りこまれた世界観ではない
けれど湯川潮音がステージに座った時に
気のせいかな
とても心地よい風が吹いた

その時僕の隣にいたのは
僕の恋人だ
僕にとって
湯川潮音ほどに
様々な思い出を含むアーティストはいない
寂しいことも苦しいことも
そして何より全ては幸せにつながってくれたのだという
都合のいい僕の思い込みによって
「幸せの歌声」として
きっとこの先も響くことだろう




思い出して切なくなるのはいつだって
一人だったときのことだ
一人の時間
それがとても貴重で美しい時間だったことを
今になって僕は思う

夜中の音楽
フレーバーティー
やまだないと
湯川潮音
森美術館
下北沢シネアートン
神楽坂椿屋
鎌倉
渋谷HMV
表参道FAB

結婚しても
きっと僕はあえて一人になったりするだろう
そして恋人のことを
結婚した後になって
懐かしく思い返して切なくなったりするだろう
そうゆう瞬間に
美しい音楽が
あればいいと思う



そうそう

「紫陽花の庭」のジャケット写真は
恋人に似てるかも・・
なんて思ったりして