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TO BE FREE

〈自分になる〉ために

チェコ二日目 2004/2/24


プラハでの初めての朝だ。
少し肌寒い中、7時前に起きた。
疲れがとれたかは分からないけれど、
朝食に向かう。
ビュッフェ式で、まだ人はあまりいない。
旅行者らしき老夫婦と僕。

ストロベリージャム、ハム、サラダ、チョコシリアル、
フルーツ、オレンジジュース、コンソメ風味のスナック。
バランスはけしてよくないチョイスだけれど、
なかなか美味しかった。

ホテルの朝食はいつも美味しい。
日本でもチェコでも。
窓から見えるのは積もった雪と石造りの建物。
雪は止んでいるが、昨晩も降ったのだろう。
誰の足跡もついていない雪だ。
どことなくブルーに見える。

午前8時。ホテルを出る。
中心街に向かう前に、ほてるの周辺を歩いた。
昨夜は吹雪で見えなかったが、
I.P.Pavlova駅の奥に尖塔が見える。
そこを目指して歩いてみた。

そこには教会があった。
教会の前には広場がある。
雪の中で遊ぶ通学中の小学生がいる。
美しい景色。
幸福の景色。

そして再び駅まで引き帰して、
旧市街広場を目指した。
I.P.PavlocaからMuzeumへ。乗り換えてMustekへ。
そこで気付いた。
ガイドブックを忘れてしまった。
仕方がなくホテルまで帰る。

気を取り直して、アルフォンス・ミュシャ美術館を目指した。
しかし展覧は11時からだということで、
近くにあるユダヤ人居住区を目指した。

途中で火薬塔に登ろうとしたけれど、
11月~3月は開放していないということ。
なるほどこの寒い時期に来る観光客はいないのか。
それでも僕は冬のプラハが大好きだけれど。

市民会館の前ではチケット売りが観光客にクラシックコンサートの
チケットを売っていた。
だけど僕は声をかけられなかった。
寂しいというのとは違うけれど、
なんだか少しだけ僕は弱さを感じた。
誰かと一緒なら堂々としているだろうことを思うと、
情けなくもなる。

これはまだ僕がクラシックを好きでなかった頃の話。
そして僕はこのことを後悔することになる。

ここまで来てまだ午前11時前。
まだまだこれからだ。

旧市街地には美しい建物がたくさんあった。
ピンクやブルーやイエローや、そんな鮮やかな建物の合間にある
陰鬱なゴシック建築

旧市街広場ではプロのミュージシャンがトランペットを吹いていた。
今の僕なら積極的に前に進んで演奏を聴き、
CDを買っているだろう。
だけどあの頃の僕は。
なにも分からなかったんだ。

びっくりするのはチェコ日記のオリジナルでの僕は
路上でミュージシャンが演奏しているのをとても不思議に感じている。
そう、東京に来るまで、路上でやるのは高校生のようなアマだけだと
思い込んでいたのだ。

まだ午前中の広場では露天もほとんどやっていない。
日本とは時間が違う。
なんとか一件見つけ出し、
チキンクネドリーキというスパイシーなチキンを食べた。
10コルナ。40円だ。

広場のベンチで休みながら食べた。
自由だな。
ほんとうに。

その後、きちんとした昼食をとりにカフェへ。
ウインナー&ポテトフライとカプチーノという
大陸式のジャンクフードを食べて、
すこし胃もたれ。

人心地ついてから
ユダヤ地区を目指す。
チケットを買い、シナゴーグを見て歩く。
ピンカスシナゴーグには壁一面に文字が書いてある。
これはナチスに殺害された人々の生命・死亡場所・死亡年月日をあらわす。
そこを出ると一面に墓地が。
一定の地区にしか住めなかったユダヤ人の人口過剰により、
墓地は雑然と敷き詰められていた。

そしてミュシャ博物館へ。
実はミュシャの絵についてほとんど覚えていない。
覚えているのは、入り口にいた白ひげの大男だ。
職員なんだと思う。
僕に英語で話しかけてきた。

「How did you know here?」

僕は「地球の歩き方」を見せた。
彼はしきりに何事かをつぶやきながら本をめくり、
ゆっくりと僕に返してくれた。
優しい人だと思った。




そう、僕は2006年になって覚えていることといえば、
歴史的に価値ある建造物よりもふとしたときの僕の感情だ。
カフェの裏道を通ったとき。
景色が青くなっていく夕暮れを見たとき。
美しい少女と目が合ったとき。
肉の香りがしたとき。
そんなものばかりだ。
それが今なお僕を郷愁に誘う。

香水
カプチーノ
礼拝堂

トイレの冷たさ
両替商の笑み
ホテルのベッドの愛しさ
ティッシュの固さ

僕がこの旅を誰にも恋をしていない時にしたということが、
実は重要だったりするような気がする。
思い返す誰かのいない旅は
自由だ。
孤独だ。


僕は、現実を少しずつ失いながら、
またしても眠りにつく。

おやすみ。

まだ会わぬ恋人へ。